映像授業で「受かる人」「落ちる人」

ICTの発達に伴い『映像授業』は一般化されてきました。
このことによって教育の『地域間格差』が是正されてきたという側面があることは、正直喜ばしいことだと思います。

しかし、一方で『映像授業』の正しい使い方が理解できていないために、せっかく受講したのに逆に合格可能性を下げてしまう結果となってしまうことが多々みられます。それはなぜなのか。今回はそのお話をしておきます。(結果、高校生中心の話になってしまいます)

『講座の取り過ぎ』が失敗の原因

 失敗の原因は『講座の取り過ぎ』にあります。仮に1つの講座が90分×20回だとします。そうするとこれだけで30時間を必要とします。そして国公立志望の場合、この講座を年間30講座近くも取ってしまう場合があるようです。
 高校3年生の4月1日から共通テスト前の12月31日まで275日、約40週です。(平日)月~金に4時間、(土日)10時間学習したとして週に40時間。学習できる時間は、40時間×40週=1600時間です。夏休みなどもっと勉強できますが、部活や模試・学校行事等でつぶれる時間もかなりあります。仮に25講座を取ったとすると、30時間×25講座=750時間を『映像授業を見るだけで』持っていかれることになります。もちろん『見るだけ』で学力がつくはずもなく、復習し自分で問題演習などOUTPUTのトレーニングを行って初めて成績UPに結びついていくのです。1600時間の学習時間の中には、当然学校の授業の予習・復習なども必要となってきます。その中で750時間も映像を見て、復習や演習の時間が確保できるのでしょうか? 結局『受けっぱなし』で終わってしまい、不本意な結果となる生徒さんも少なくないようです。ですから、まず合格するためには『講座を取り過ぎないこと』、重点的に強化したい講座を週に1講座、多くとも2講座が適量だと思います。

『課金制』の落とし穴

 ひと口に「映像授業」と言いますが、映像授業には『課金制』と『定額制』があります。
 『課金制』とは1講座ごとに料金が発生するものです。つまり[講座単価×講座数]が受講料ということになります。実は先の「取り過ぎ」の原因がここにあるのです。塾側は、当然売り上げのために1つでも多くの講座を受けてもらいたいと思います。「国公立を目指すのならこれくらいの講座は必要です」とか「合格された方は皆さんこれくらいは受講されています」というのは決まり文句だと思ってください。さらに「〇〇講座以上まとめて申し込むと割引になる」という制度があるところも多く、1講座数万円もするのでこの割引が魅力的に見えてきます。その結果「あんた結局全部やらなきゃいけないんだからこの際申し込んじゃえば」というのが、『取り過ぎ』につながるパターンです。

 一方『定額制』というのは、何講座受けても料金が変わらないというものです。具体的に言うと「スタディサプリ」などが挙げられます。受講料も「ベーシックコース」なら月額2000円程度で見放題となっており、かなりリーズナブルです。「講師の質が良くないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一応経営母体は『リクルート社』ですし、講座の質も保証されています。ただし「見放題」だからといって『取り過ぎ』に注意しなければならないのは『定額制』の場合も同じです。

結局『受かる』使い方とは

 現在、大学受験の学習の主流は『参考書学習』です。原点回帰というか、王道は不変ともいえるかもしれませんが、近年参考書の内容も著しい進化を見せています。短めの解説動画とセットになった参考書なども出始めています。もっとも効率の良い学習方法は、参考書や問題集で学習し、苦手な教科・分野だけ「映像授業」を補助的かつ限定的に用いる。そして読んでも見てもわからないところは必ずありますから、わからないところは必ず質問して疑問をひとつひとつ確実に解消しておくことです。

『映像授業』に関するその他の注意点をいくつか挙げておきます。
①「高速再生」では見ない
 ほとんどの映像授業は、1.5倍速や2倍速など再生速度が変えられるようになっています。普通の速度で聞いていても理解できるかどうかわからない人が「高速」で聞いて理解できるはずはありません。たとえ90分が45分で終わったとしても、その45分は無駄になっていることがあります。

②「途中解約」もできる
 多くの講座を一括申込したとしても、多くの場合「途中解約」して返金してもらうことはできます。ただし、受講していない講座に限られますし、解約手数料も発生します。「今解約してもあまり戻ってこないのでもったいないですよ」と言われるかもしれません。が、解約はできるはずです。この「解約返金」を発生させないために「高速再生」で講座を『消化』させることもあるようです。

③『見直し』はできないと思え
 よく「映像授業だとわからないところを何度も見直しできますよ」と言われますが、1回見るだけでもかなりの時間を取られるのに「見直し」などしている余裕はないと思った方がいいです。それと「わからなければまた見直せばいいや」といった気持ちで見ていると『流し見』になってしまい、結局「ほとんど頭に残っていない」といった状態になってしまいます。

学校の勉強はできるだけ大切にする
 「何を当たり前のことを」とお思いでしょうか。しかし、塾の中には公然と「学校の勉強は役に立たないから」と言い放っているところもあります(映像授業に限らず)。確かに高校3年生になり受験科目が絞れてきた結果、不要になる授業が出てくることもあるかもしれません。そういった場合は別として、やはり学校の授業は大切にしてください。特に1・2年生はそうです。『映像授業』に時間を取られて学校の勉強がおろそかになるのは本末転倒でしょう。

それでも「合格する人」はいる

 ここまで述べてきたことはあくまでも「私見」であり「一般論」ですから、個々人の状況等により当然『例外』もあります。「合格体験」などを読むと『例外的』な出来事を「一般的」な出来事、「誰でもそうなれる」と勝手に頭の中で置き換えてしまうのは人間の悪いクセかもしれません。
 『映像授業』をたくさん取って学力を伸ばし、見事志望校に合格していく人はいます。そういった人たちは、学校レベルのことであれば授業を聞いてすぐに理解でき、プラスアルファを必要としてとしている人たちかもしれません。地域の進学校と言われる高校の生徒さんが多くく通われ、校舎も何校・十何校とある現状を踏まえて「合格実績」を見てみてください。『映像授業』と付き合うなら、自分の実力(学力や・学習習慣)にふさわしい『地に足の着いた』利用を心掛けることが何より大切だと思います